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2019.08.12
カテゴリー:医療
最近、テレビでは健康番組の枠がかなり増えたような気がします。効果が今一つはっきりしない健康法を「あれを食べると健康に良い」「あの習慣は健康に悪い」などとやっていますよね。
そんな番組がやっている一方で効果があるのにも関わらず過小評価されているのが予防接種です。(禁酒や禁煙、運動などもわりと過小評価されていると思います。)
現在、日本では多くのワクチンが日本で定期接種となっており、大多数の方が接種を受けています。このなかで感染症だけでなく、「がん」を予防するワクチンがあるのをご存じでしょうか。
もちろん全ての癌を予防できるわけではなく、子宮頸がんという種類のがんに限って…ではありますが。この子宮頸がんワクチンはかつては多くの人から早期の導入を待望され、鳴り物入りで定期接種に導入されたにも関わらず、10数年に渡って非常に接種率の低い状態が続いていました。これは様々な副作用の報道の影響や厚労省が「積極的な接種を勧めない」と声明を出していることが大きな原因と考えられます。また、純粋に自治体から定期接種のお知らせが止まっていたというのも大きな原因の一つでしょう。
かつてはテレビなどでも危険性が盛んに報道されていましたが現在では報道機関も興味を失ったのか、ニュースが出てくるのも稀となっています。
とは言え、最近でも子宮頸がんワクチンに対する抵抗感は依然として強いようです。先日も予防接種を受ける子の親御さんに「次は子宮頸がんワクチンですね。」と言ったところ「子宮頸がんワクチンは危ないのではないですか?」という質問を受けたことがありました。子宮頸がんワクチンは受けない方がいいのでしょうか?それとも受けたほうがいいのでしょうか?
今回は子宮頸がんワクチンについて話をしていきたいと思います。
癌には原因が分かっていない(一つに定められない)もの(大腸癌など)と原因が分かっているものがあります。(原因をなくしてもごくまれに癌が発生することはあります。)
原因の分かっているものの例としては頭頸部がん(舌、咽頭、喉頭、など)、食道がん、胃がん、肝細胞癌、そして子宮頸がんがあります。
このうち頭頸部がん、食道がん、胃がん、肝細胞がんについてはいずれも慢性的な炎症が原因となります。頭頸部がんや食道がんは喫煙や飲酒、胃がんはピロリ菌による慢性胃炎、肝細胞がんは肝炎ウイルスなどによる慢性肝炎が原因となります。大腸がんについても慢性的に炎症を起こす病気(潰瘍性大腸炎など)では発がんの原因となることがわかっています。
これに対して子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(以下HPV)と呼ばれるウイルスの感染によるものがほとんどだとされています。
子宮頸がんは若年者に多い
子宮頸がんは子宮の下の方にできるがんです。比較的若い女性がかかる事が多いのが特徴で、全世界では女性のがんによる死亡原因の第2位となっており、日本国内でも年間約1万人の方がかかっています。
若い女性がなるため、完治したとしてもその後妊娠ができなくなったり早産の原因となったりする、長い期間を再発の不安を感じながら生きていくことになるなどの問題があり、その社会的な影響は大きいと思われます。
子宮頸がんはほとんどの場合、ヒトパピローマウイルス(以下HPV)と呼ばれるウイルスの感染により起こります。(その中でも16, 18, 30, 31, 33, 35, 45, 51, 52, 58型などの一部の遺伝子型のものに感染した場合に癌の原因となります。)このウイルスは主に性行為により感染するウイルスですが、性交渉を行う女性のうち50-80%という非常に多数の方がHPVの感染を経験するとされています。癌の原因となる種類のHPVは人間の細胞に感染する際にp53やpRBなどのがん抑制遺伝子を機能できなくしてしまうとされています。しかし、感染した方が全員がんになるわけではなく、多くの人では1年以内にウイルスはいなくなります。感染によって子宮頸部に癌のもとになる細胞ができますが、これも通常は約3年以内に消えてしまいます。しかし、感染した方の約10%では3年以上感染しつづけてしまう人がおり、さらにその一部の方が数ヶ月から数十年の経過を経て子宮頸がんになってしまうとされています。
HPVには多数の人(女性の50−80%)がかかるが、そのうち癌になるのは一部
HPVは非常に多数の方がかかってしまう病気ですが、ワクチンにより(対応する型については)ほぼ完全に予防できる事がわかっています。このため、先進国の多くではHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)を定期接種としています。日本でも2010年より公費助成が行われていますが、開始当初は70%以上の接種率だったものの現在は1%未満という状態です。
子宮頸がんワクチンが定期接種となってしばらくたったころより、接種を受けた方に原因不明の神経症状が現れたという報告が相次ぎました。これに一部の医師や研究者が「脳と免疫系の異常である」「患児の神経細胞に特殊な物質の沈着が見られる」などとして子宮頸がんワクチンとの関連性を主張し、各報道機関などでも大きく取り上げられ、問題となりました。
実際には子宮頸がんワクチン導入以前から、原因不明の長引く痛みを訴える子供が多数いる事は小児科領域の精神科や神経内科の医師の間ではよく知られていることだったようです。ワクチンによる薬害は、これまでも新たなワクチンが導入されるたびに報告があったものの、その後しばらくして鎮静化するという事を繰り返してきたのですが(ポリオやおたふくなど実際に副作用が認められた例もあります)、子宮頸がんワクチンの場合は接種そのものがほとんどされないという状態になってしまいました。実際にはワクチン否定派の主張はワクチン接種の有無によって神経症状の発生率が変化することを十分に証明することなく神経症状の原因をワクチンに求めたり、また原因を調査する遺伝子検査やマウス実験についても不適切なものが見られるなど十分に科学的とは言えないものも多くみられました。
厚生労働省も神経症状とワクチンの関連性を認めなかったものの、2013年6月14日に子宮頸がんワクチンを定期接種に据えたまま「積極的勧奨を控える」との声明を出しました。
2015年には名古屋市が副反応に関するアンケートによる調査を行い(回答率は43.4%、回答者のうち接種者の割合は69.47%)、これらの症状は子宮頸がんワクチン接種の有無よりも年齢により強い影響を受けているとする「速報」を出しましたが、すぐに削除されてしまい、その後正式な解析結果も出ないなど不可解なこともありましたが、2018年にはHPVワクチンと神経症状の関連性を示唆するマウス実験の論文が当初掲載されていた科学誌により撤回されたり、2019年には日本産婦人科医会がワクチンの積極的勧奨再開を求める要望を出すなど新しい動きもあります。
子宮頸がんワクチンに関連する神経症状は海外では複合性局所疼痛症候群(CRPS)としてまとめられており、小児のCRPSは、英国のデータでHPV接種100万回に1人とされています。
また、日本を含む複数の国で行われた臨床試験をまとめた結果では、子宮頸がんワクチンを受けた人に重大な有害事象(有害事象というのは副作用だけでなく、ワクチンを受けた後に交通事故にあったり、ほかの病気にかかって亡くなるなどの場合なども含まれるので、数字そのものよりもワクチンを受けている群と受けていない群との比較が重要になります。)は7%とされますが、これはワクチンを受けていない群と同等となっています。
これに対して子宮頸がんは年間1万人程度がなるとされており、年間2,700人が死亡しているとされています。更に若い女性がなることから、完治してもその後妊娠ができなくなったり早産の原因となる、長い期間を再発の不安を感じながら生きていくことになるなどの問題があり、社会的な影響は大きいと思われます。
現在の子宮頸がんワクチンの接種年齢は11-17歳です。HPV自体は性感染症ですので(空気や飛沫感染するわけではないので)必ずしもこの時期に受けなければならないというものではありませんが、ウイルス自体としてはとても感染率の高い疾患です。また、(高リスクの)HPVウイルスに一度暴露してしまってからでは、ワクチンを受けてもその型のウイルスに対しては十分な効果が得られないことがわかってきている上、人間の免疫は若い時期ほど免疫がしっかりつくようになっているので、医学的には「早ければ早いほどよい」と言われています。最低でも最初の性交渉を行う前には接種しておく必要があるとされています。2023年より子宮頸がんの90%以上が予防できる9価ワクチンも承認され、定期接種となっていますが、こちらでは15歳以下で受ける方なら2回の注射で良いのに、15歳以上で受ける場合は3回となってしまっています。これは15歳以上の方ではワクチンの効果が低下してしまっていることを示しています。
シルガード9の適応は9歳ですので、実際には11歳よりも早く接種を受けることも可能です。
ただし、自費で接種を行うとかなり高くつくのは確かですので、やはり公費助成が受けられる時期に行うのが良いでしょう。
現在、子宮頸がんワクチンを本来の時期に接種できなかった方のために子宮頸がんワクチンを無料で接種できる、キャッチアップ接種が開始されています。子宮頸がんワクチンというものは接種が遅れるほど効果が低下していってしまうものなので、完全に代わりになるものではないのですが、ここからの新たなHPV感染を予防することができる可能性があります。キャッチアップ接種の対象となる方は平成9年度-平成18年度生まれの女性で、子宮頸がんワクチンを3回接種していない方です。
キャッチアップ接種の政策は2025年3月末までとなっていますので対象の方は早めにご相談ください。
自費で受ける場合は何歳まで効果があるのかは非常に難しい話です。その型の体調や歩んできた人生によって全く異なりますが、40代くらいになってしまってからだと予防接種の効果は殆どないとされています。(それまでの人生で既にHPVに暴露している可能性がある上、人によっては既に子宮頸部の細胞に異形成が発生している場合があります。)
20代であれば効果はあるとされていますが、人によって効果に差異がありますのでご了承ください。
また、男性はHPV接種を無料で受けることはできませんが、効果がないかというと、そんなことは全くありません。まだHPVに暴露していない方が接種を行えば、尖圭コンジローマや中咽頭癌、肛門がんといった、HPVに関連するがんにかかる可能性を大きく減らせる上、大事なパートナーがHPVに感染してしまう可能性も減少します。自費のため27500円x3回となり、費用がかかってしまいますが、ご希望のある方はご相談ください。
2024年2月 現在のHPVワクチンの現状を踏まえ、記事を一部修正しました。
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