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赤羽根医院ブログ

刺身を食べた後の腹痛はアニサキス食中毒かも。早めの胃カメラを。

2020.11.12

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現代はあらゆるところでお刺身を食べることができます。漁港で、飲み屋で、山奥の旅館、レストランで、あるいは家庭の食卓で。
しかし刺身を食べた後に数時間〜十数時間したところで激しい腹痛に襲われたら、それはアニサキスによる食中毒かもしれません。
食中毒というと、下痢や嘔吐、腹痛というイメージがありますが、アニサキス中毒(アニサキス症、)は下痢などはなく、ひたすらお腹が痛い(しかも、胃が痛い)吐くのは胃液だけという食中毒です。

また、食中毒といえば調理後時間のたったものや生肉などを思い浮かべがちですが、今回のアニサキス中毒は新鮮なお刺身を食べることによって起きる食中毒です。
2017年には食中毒の中でも報告数が最多となったので「アニサキス」という言葉は聞いたことがある人も多いのではないのでしょうか?自分自身ではなくても、親戚や職場の人がなった話を聞いたなどを含めると、言葉だけでも聞いたことのある人はそれなりの数に上ると思います。

アニサキスは魚介類にいる寄生虫でヒトの体内では長生きできない

アニサキスは寄生虫の一種で、長さ2〜3cm、幅0.5〜1mmで白色の太い糸のような形をしています。本来は人間でなく、イルカやクジラなどの水棲哺乳類に寄生する生き物です。彼らは胃に大量のアニサキスを飼っていることもありますが、特に痛がることもなく、平然と泳いでいます。(多くの寄生虫では本来の寄生するべき相手に対してはひどい症状を与えないことが多いです。寄生している生き物が死んでしまったら寄生虫自身も死んでしまいますので。)
アニサキスは幼虫のうちはサケ、サバ、アジ、イカ、タラなどの魚介類に寄生しています。
これがイルカやクジラなどに食べられて寄生するのですが、魚介類を食べるのはイルカだけではありません。
そう、人間です。人間がイカやサバに入っているアニサキスを食べてしまうとアニサキスは環境の違いにより長くとも1週間程度で死んでしまいますが、その1週間のうちに人間には様々な症状が出ます。
軽い腹痛が出るだけの方もいますが、強い腹痛でのたうち回る方もおられ、以前は痛みが強すぎて胃に穴が開いたと間違われて開腹手術になってしまう場合もありました。(最近はCT検査や内視鏡などの画像診断が発達したため、かなり減りました。)また、腸に入ってしまうと炎症性肉芽腫などを起こしてアニサキス症と判断されたうえで手術となることもあります。

アニサキスは増えている??

アニサキス中毒の報告数は2007年まで年間10件以下でしたが、2008年以降次第に増加し、2017年には230件に急増しています。
これについては、以前からアニサキス中毒自体はありふれた病気だったことも考えると、以前にはしっかり報告されていたなかったものが正しく報告されるようになってきたことによるものといわれています。
ただし、地球温暖化や海水温の上昇によりこれまでアニサキスのいなかった魚や海域で汚染が報告されることもあるようですので、今後アニサキス中毒が増えていく可能性はあります。

アニサキス食中毒を防ぐにはどうしたらいい?

アニサキスの食中毒を防ぐために重要なのは魚介の生食(つまり刺身)を避けることです。通常、アニサキスは魚が生きている間は魚の消化管にいるのですが、魚が死ぬと臓器から筋肉(我々が食べる場所です)に移動してきます。特にサバやイワシ、イカなどの痛みやすい魚では早くアニサキスが移動してしまいます。

アニサキスのいる魚は?

アニサキス中毒で有名なのはイカやサバ、イワシなどですがその他にもアニサキスの存在が確認されている魚は多数あります。
特にキンメダイ、ホッケ、マサバ、サワラ、メジマグロ、アイナメ、サンマなどでは高率にアニサキスが検出されているため、アニサキスがいるという前提で扱うことをお勧めします。
また、最近ではカツオなどもアニサキス中毒の報告がありますのでご注意ください。

とは言え、全く刺身を食べられないというのでは楽しくありません。お刺身などを食べる場合のご注意を書いておきます。

お刺身を食べる場合に注意すべき点は

1.冷凍にすれば安心
アニサキスは「60度以上での1分以上の加熱」「マイナス20度以下での24時間以上の冷凍」によって死滅します。加熱してもよいのですが、お刺身ではなくなってしまいますので刺身を食べたいけれどアニサキスが心配という場合は冷凍品を買いましょう。冷凍にしてしまうと若干風味が落ちるとは思いますが、安全のためには冷凍品がおすすめです。
また、カツオのたたきなどでは周囲をあぶります。肉の周辺にアニサキスがいた場合は無害化できますが、中心部分は生ですので肉の中心付近までアニサキスが入り込んでしまっている場合はアニサキス中毒を予防することはできません。しめさばなどはお酢を使いますが、アニサキスが死ぬほどの濃度ではありませんのでご注意ください。

2.生で食べる場合は飾り包丁を入れたり、いかそうめんにするなどの工夫が必要
新鮮なものならば大丈夫と言っている人もありますが、絶対に大丈夫というものではありません。ただ、生で食べる場合はできるだけ新鮮なものを、低温で保管して食べる。(低温の方がアニサキスの活動性が低下して内臓から肉に移動するのが遅くなる)、腹側の肉は生では食べないようにするなどの工夫が必要です。特にイカやサバ、イワシ、ホッケなどの痛みやすい魚に関しては、新鮮なものであっても危険と思っておいたほうが良いと思います。
生で食べる場合は酢で締めたり、周囲をあぶったりしてもしてもアニサキスは死にません。この場合にできるアニサキスを避ける工夫の一つは「飾り包丁を入れる」、「細かくする」です。
飾り包丁を入れたり、なめろうのようにミンチにしたり、細いいかそうめんにする事で筋肉の中に潜んでいるアニサキスを見つけ、除去できる場合があります。
アニサキスはとても硬いのでよく噛んだとしても噛み切ったりすることは難しいので、口に入る前に対処することをお勧めします。

3.新たなアニサキス対策 電気ショックや紫外線ライトなど
ここまで紹介してきたのは、かなり昔から伝統的に行われてきた対策ですが、アニサキスに対しては最近になって新たな予防法が複数出てきています。
一つは魚の切り身などに対して電気ショックを流すことによりアニサキスを殺す方法です。こちらについては一部企業で導入が始まっており、そのような対策を施した切り身を使用することによってアニサキスを予防することが可能です。
もう一つは紫外線ライトをあてる方法です。波長365nmの光を当てるとアニサキスが発光することがわかっています。この波長のライトを当てることにより、切り身や刺し身などに入り込んだアニサキスを発見することができます。ただし、この方法についてはあくまでも「発見しやすくする」方法であり、全て取り除けるとは限りませんので、ご注意下さい。
こちらからリンクを貼ることはありませんが、「アニサキス 紫外線ライト」 「365nm 紫外線ライト」などの検索キーワードで商品のページが見つかると思います。

もちろん、これらの対策についてはいずれも確率を下げるものではありますが、絶対的なものではありません。確実なアニサキス対策はあくまでも「加熱」と「冷凍」です。

アニサキス症になったらどうしたらいい?

アニサキス症はアニサキスを除去することが治療の第一です。アニサキスが胃の中にいる間は胃カメラで除去することができます。
消化器内科や胃腸科などに行って、緊急で胃カメラを行い、アニサキスを除去してもらいます。アニサキスが除去されても痛みはしばらく続くこともありますが、程度はだいぶ軽くなることが多いです。胃カメラを行ってもらう場合には食事を取らずに行った方が良いでしょう。


胃の中のアニサキス

アニサキスが胃を超えて十二指腸や小腸にまで行ってしまうと、内視鏡での除去は難しくなってしまいます。薬で症状を取りながらアニサキスが死ぬのを待ったり、場合により手術が必要となる場合があります。

また、アニサキスは通常、胃の壁に嚙みついていることが多いのですが、アニサキスによる腹痛の原因は、実はアニサキスが胃に嚙みついているせいではありません。
アニサキスによる腹痛は人間の体がアニサキスに対してアレルギー反応を起こすために起こっていることが分かっています。
このため、すぐに内視鏡を行うことが出来ない場合には抗アレルギー薬やステロイドなど(いずれもアレルギーを抑える薬です)を使用することがあります。
これらを使うだけでもかなり痛みが良くなることは知られています。

また、生魚の食中毒だけでなく、加工品のサバを食べて「じんましん」がでてしまう人が多いのについても一部はアニサキスの死体が原因となっているものがあることも知られています。

正露丸のメーカーが「アニサキスに正露丸が効く」といった宣伝を一時期行っていました。特許を取っているとのことですが、特許は効果が証明されていなくても取ることができるもので、実際の効果は不明です。また、「アニサキスの動きが悪くなる」という宣伝文句だったようですが、アニサキス中毒による腹痛はアレルギー反応によるものであることが分かっているため、痛みの改善とはあまり関係がなさそうです。無理に正露丸を飲んで痛みを我慢したりせず、早めに胃腸科や消化器内科を受診してください。

まとめ

生魚を食べた後に急激にお腹が痛くなった場合などにはアニサキス症の可能性があります。
早めにお近くの胃腸科や消化器科を受診し、魚を食べたことを言いましょう。胃の内視鏡を行って(アニサキス以外が原因で空振りに終わることもありますが)アニサキスを除去できれば、すぐに症状が良くなる可能性があります。アニサキス症を予防するためには冷凍品か加熱したものがおすすめです。
気になる症状があればお近くの胃腸科や消化器科にご相談ください。

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