花粉症やダニ、食物アレルギーなど、アレルギーの症状は日常生活に大きな影響を与え、本当につらいですよね。これまでアレルギー治療といえば「薬で症状を抑える」ことが中心でしたが、国が進めている「OTC類似薬の自費負担率増加」により、今後はアレルギーの薬についても自己負担分が増加し、薬剤費が増加する可能性があります。(今後、もしも完全自費化などの流れとなれば薬価自体も薬局並みの高い値段となる可能性もあります)

そんな中で、近年では根本的な体質改善を目指す「アレルギー免疫療法」が大きな注目を集めています。


1. そもそも「アレルギー」とは?

私たちの体には、ウイルスや細菌などの外敵から身を守る「免疫」という素晴らしい防衛システムが備わっています。

しかし、この免疫システムが、本来は体に害のないはずのもの(花粉、食べ物、ダニのフンなど=アレルゲン)に対して「危険な敵が来た!」と勘違いし、過剰に攻撃してしまう状態がアレルギーです。

  • IgE抗体の産生: アレルゲンが体内に入ると、体はそれに対抗するための武器(IgE抗体)を作ります。

  • ヒスタミンの放出: 再びアレルゲンが侵入してIgE抗体と結合すると、細胞から「ヒスタミン」などの化学物質が大量に放出されます。

  • 症状の発生: このヒスタミンが神経や血管を刺激することで、くしゃみ、鼻水、かゆみ、皮膚の赤みといった辛い症状を引き起こし、外敵を体から追い出そうとするのです。

かつては「アレルゲンを口から食べる・吸い込む」ことでアレルギーになると考えられていました。

しかし、近年ではアレルギーは消化器(口や消化管など)などの人間に必要な栄養素が入ってくる「表口」から入ってくるものに対しては免疫の警戒が弱くなり、一方で気道皮膚など、ばい菌やウイルスなどの外敵がよく侵入してくる「裏口」から入ってくるものに対しては免疫の警戒が強化されてくる傾向があることがわかってきました。

これを「経皮感作(けいひかんさ)」といいます。

アレルギーの仕組みを理解する上で、日本で実際に起きた「茶のしずく石鹸事件」は、非常に重要かつ象徴的な事例です。

この出来事は、アレルギー医療における「常識」を大きく覆すきっかけともなりました。アレルギーに対する理解を深めてもらうため、この事件がどのようにして起こったのかを説明していきます。


2.「茶のしずく石鹸」事件とは?

2000年代後半から2010年代前半にかけて、特定の洗顔石鹸(旧・茶のしずく石鹸)を使用していた多くの人たちが、突然「小麦アレルギー」を発症し、パンやうどんを食べた後に呼吸困難やアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を引き起こしたという出来事です。

この石鹸には、泡立ちを良くしたり保湿性を高めたりする目的で、「加水分解コムギ」という小麦由来のタンパク質成分が含まれていました。

 I. なぜ石鹸で「食物アレルギー」になったのか?(経皮感作のメカニズム)

石鹸は「食べる」ものではありません。それなのになぜ、小麦の「食物アレルギー」になってしまったのでしょうか。これこそがまさに「経皮感作」の恐ろしさです。以下の3つのステップで進行しました。

  • ステップ1:皮膚からの侵入(毎日の洗顔) 毎日の洗顔により、石鹸に含まれる「加水分解コムギ(アレルゲン)」が顔の皮膚に触れ続けます。特に、洗顔料は皮膚の皮脂汚れを落とすため、肌のバリア機能が一時的に低下しやすく、さらに目や鼻の粘膜、あるいは見えない小さな肌荒れなどを通じて、小麦成分が皮膚の奥へと入り込んでしまいました。

  • ステップ2:免疫の勘違い(経皮感作の成立) 皮膚の下には、外敵を見張る免疫細胞がたくさんいます。口から食べた場合は「食べ物だ」と認識して受け入れる(経口免疫寛容)のですが、皮膚から侵入してきた小麦成分に対して、免疫細胞は「見たことのない外敵が皮膚を破って侵入してきた!」と勘違いしてしまいます。そして、小麦を攻撃するための武器(IgE抗体)を体内に作って待ち構えるようになります。これが「感作」された状態です。

  • ステップ3:食事による激しいアレルギー反応 感作された状態の人が、ある日普通にパンやうどん(小麦製品)を「口から」食べます。すると、消化管から吸収された小麦成分に対し、すでに全身で待ち構えていた免疫システムが「あの時の敵がまた来た!」と猛烈な攻撃を開始します。その結果、食べた後に全身の蕁麻疹、まぶたの腫れ、呼吸困難などの激しいアレルギー症状(アナフィラキシー)が引き起こされたのです。

 II. この事件が医療界に与えた衝撃

以前のアレルギー常識では、「食物アレルギーは、その食べ物を口から食べることで発症する」と考えられていました。

しかし、この事件を通して「口から食べていなくても、皮膚からアレルゲンが入り続けることで、食物アレルギーが発症する(経皮感作)」という事実が明確に証明されました。現在、赤ちゃんのアレルギー予防において「とにかく保湿をして肌荒れを防ぐこと(皮膚のバリア機能を保つこと)」が最重要視されているのは、この経皮感作を防ぐためです。


「皮膚から入ると敵になり、口から入ると食べ物と認識される」という人体の不思議なメカニズムが、悲しい形でお茶の間に知れ渡ることになったのが、この石鹸の事例です。

他にも、ピーナッツオイルを使ったスキンケアなどで同様の事例がありますし、蕎麦屋の店主がそばアレルギーを発症する例は意外と多いなど、経皮感作の例は多くあります。

こういったアレルギーを防ぐうえで重要なことがいくつがあります。

1.保湿などスキンケアに気を使い、皮膚が傷ついた状態をできるだけ避ける。

  • 健康な皮膚: バリア機能が働いており、アレルゲン(花粉、ダニ、食べ物のカスなど)を跳ね返します。

  • 荒れた皮膚(乾燥、湿疹など): バリア機能が壊れているため、アレルゲンが皮膚の奥に侵入します。すると、皮膚の下にある免疫細胞が「未知の敵が侵入してきた!」と勘違いし、攻撃態勢を整えてしまいます。これが「感作(アレルギーの準備状態になること)」です。

    つまり、日々の生活の中で荒れた肌から微細なアレルゲンが入り続けることで、アレルギーが発症しやすくなるのです。

2.「食べ物を使用した」とうたう化粧品は使用しない。

「食べ物を使用した化粧品」と言われると「安全そう」「体に良さそう」といったイメージを持つ方もいるかも知れません。しかし、これらの化粧品を常用すると使用されている食べ物に対するアレルギーを発症する恐れがあります。良く注意してご使用ください

3.エビやカニなど怪我しやすいものや小麦やそば粉などを普段から扱う場合は、マスクや手袋をしっかりして気道や皮膚を守る

トゲや殻のある甲殻類は殻を開けたり、中身を取り出すときなどに怪我をしやすく、皮膚から甲殻類の成分が侵入しやすいほか、小麦粉やそば粉は粉塵となり、気道から侵入しやすいです。こういった「裏口」から侵入しやすい食物は普通に食べるだけなら問題ありませんが、扱う機会が多い場合はマスクや手袋などで防御をしましょう。

などです。

1. アレルギー免疫療法(減感作療法)とは?

アレルギー免疫療法とは、アレルギーの原因となっている物質(アレルゲン)を、ごく微量から少しずつ体内に取り入れ、体をアレルゲンに慣れさせることで、アレルギー症状を和らげる(あるいは出なくする)治療法です。(「アレルギー」とつけているのはがんなどで行われる場合のある「免疫療法」と区別するためです)

現在、主に以下の2つの方法で行われています。

  • 舌下免疫療法(SLIT): アレルゲンを含む薬(錠剤や液体)を舌の下に含み、粘膜から吸収させる方法。自宅で毎日行えるため、現在主流になりつつあります(スギ花粉やダニアレルギーに保険適用)。

  • 皮下免疫療法(SCIT): アレルゲンを含む注射液を、病院で皮下に注射する方法。徐々に濃度を上げながら、定期的に通院して注射を受けます。

安全性や簡便性の面では舌下免疫療法のメリットが大きいため、ダニやスギなどの製剤化されたものについては舌下免疫療法を使用することが多くなってきています。

当院ではダニやスギに対して舌下免疫療法を行っています。

 

2. なぜ免疫療法で治るの?(口からのアプローチ)

皮膚から入ると「敵」とみなされるアレルゲンですが、実は「口(消化管や粘膜)」から入ると、体は「これは安全な食べ物・物質だ」と認識して受け入れるというシステムを持っています。これを「経口免疫寛容(けいこうめんえきかんよう)」と呼びます。

アレルギー免疫療法(特に舌下免疫療法)は、この仕組みを応用しています。

  1. 敵とみなしている状態: 経皮感作などにより、体が特定のアレルゲンを過剰に攻撃している(=アレルギー症状が出ている)。

  2. 安全なルートで教え直す: 舌の裏の粘膜や、コントロールされた注射を通じて、少しずつアレルゲンを体に入れる。

  3. 体が慣れる: 免疫システムが「あれ?これもしかして攻撃しなくていい安全な物質かも?」と学習し直し、過剰な反応(くしゃみ、鼻水、かゆみなど)を静めていきます。

 

4. 免疫療法のメリット・デメリット

根本的な改善が期待できる素晴らしい治療ですが、魔法の薬ではないため、現実的なメリット・デメリットを理解しておくことが大切です。

メリット

  • アレルギー症状を根本から和らげ、薬(抗ヒスタミン薬など)を減らしたり、ゼロにできる可能性がある。

  • 治療終了後も、長期にわたって効果が持続することが多い。

  • 新たなアレルギーの発症を予防する効果も期待されている。

デメリット

  • 時間がかかる: 体の免疫を教育し直すため、最低でも3年〜5年程度、毎日(または定期的に)継続する必要があります。

  • 即効性はない: 始めてすぐに症状が消えるわけではありません。

  • 副作用のリスク: アレルゲンを体に入れるため、口の中の腫れやかゆみ、まれにアナフィラキシーなどの強いアレルギー反応が起きるリスクがあります(特に治療開始直後)。


アレルギー免疫療法は、根気が必要ですが、将来的な生活の質(QOL)を劇的に向上させる可能性を秘めた治療法です。ただし、免疫療法の効果が出るのには時間がかかり、特に投与開始初期ではアレルギーがひどくなる場合もありますのでスギ花粉症の場合は花粉の飛散する季節までに間がある、初夏の時期までに治療をはじめる事が勧められています。

スギ花粉症にお困りの方で、アレルギー免疫療法に興味のある方は免疫療法を行っている医療機関にご相談ください。

赤羽根医院