急増する大腸がんと、命を守る「攻めの予防」
近年、著名人が大腸がんに罹患したり、亡くなったりなどのニュースが相次いでいます。ニュースを見て不安を感じた方も多いのではないでしょうか。大腸がんは確かに増え続けている恐ろしい病気ですが、一方で「適切な行動をとれば予防できるがん」でもあります。
今回は消化器内科の専門医の視点から、最新のデータや疫学を交えつつ、なぜ大腸がんが増えているのか、そしてどうすれば予防できるのかをお伝えします。
1. 最新統計が語る大腸がんの実態
現在の日本において、大腸がんは決して「珍しい病気」ではありません。国立がん研究センターの最新の統計データによると、大腸がんには以下のような厳しい現実があります。
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罹患数(新しく診断される数)は第1位:年間約15万4,000人(2023年データ)と、すべてのがんの中で最も多くなっています。
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死亡数は第2位(女性では第1位):年間約5万4,000人が命を落としており、肺がんに次いで2番目に多いがん死亡原因です。
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生涯で診断される確率:男性で約10人に1人、女性で約13人に1人が一生のうちに大腸がんに罹患します。
大腸がんは40代を過ぎた頃からリスクが跳ね上がりますが、近年は30代以下の若年層での発症も問題視されています。
2. なぜ日本でこれほど大腸がんが増え続けているのか?
よく「食生活の欧米化」が原因として挙げられますが、実は現在の日本は大腸がんの罹患数において、すでに欧米諸国を上回る「大腸がん大国」となっています。 なぜ日本でこれほどまでに増加しているのか、そこには以下の要因が複雑に絡み合っています。
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世界一の「超高齢化」社会 がんは細胞の遺伝子変異の蓄積によって起こるため、本質的には「加齢に伴う病気」です。長寿国である日本は、高齢者の割合が極めて高く、大腸がんに罹患するリスク層の母数が圧倒的に多くなっています。年齢を重ねるほどポリープも発生しやすくなるため、超高齢化社会の日本では大腸がんが増加するのは疫学的な必然と言えます。
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予防医療(大腸内視鏡検査)の浸透度の低さ 現在、欧米(特にアメリカ)では大腸がんの罹患率は減少傾向にあります。これは、ある一定の年齢に達すると大腸内視鏡検査を直接受けるスクリーニング体制が定着しており、がん化する前のポリープの段階で根こそぎ切除しているためです。しかし現在、そのアメリカでさえ、食生活や環境の変化によって『検査対象年齢前の若年層(20〜40代)』で大腸がんが急増し、若者のガン死因トップになっています。
ましてや、内視鏡検査のハードルが高く、高齢化が進む日本において、大腸がんが増え続けているのは当然の帰結です。年齢を問わず、血便などのサインを見逃さないこと、そして40歳を過ぎたらためらわずに内視鏡検査を受けることは非常に重要です。 -
急激な「食生活の欧米化」と日本人の体質 日本人の腸は元来、高食物繊維・低脂肪の和食に適応してきましたが、戦後の短期間で赤肉(牛・豚)や加工肉(ハム・ソーセージ)の過剰摂取、高脂肪・低食物繊維の食事へと変化しました。この急激な環境変化に遺伝的な体質が追いついていないこと、さらに過度な飲酒や喫煙習慣が重なることで、欧米人以上にリスクが高まっていると考えられています。
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運動不足と腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の乱れ 長時間のデスクワークなど座りっぱなしの生活やそれに伴う肥満も、確実なリスクファクターです。さらに近年注目されているのが腸内細菌の乱れです。前述の食生活の変化や抗生物質の多用などが腸内細菌のバランスを崩し、腸の慢性的な炎症やがん化を引き起こす原因の一つとして指摘されています。
3. 大腸がんは「予防できるがん」である
これほど罹患数が多いにもかかわらず、大腸がんは予防が可能です。その最大の理由は、大腸がんの発生メカニズムにあります。
大腸がんの約8割は、正常な粘膜から突然がんが発生するわけではなく、良性の「ポリープ(腺腫)」が数年〜10年以上の時間をかけて徐々に大きく成長し、やがてがん化するというルートをたどります。
つまり、がんになる前の「ポリープ」の段階で見つけて切除してしまえば、大腸がんそのものの発生を未然に防ぐことができるのです。
4.命を守るための2つのステップ
症状が出たらすぐに病院に行く、というのは間違いではありません。しかし、血便などの症状が出る頃には、すでにがんが進行しているケースが少なくありません。無症状のうちに行動することが絶対条件です。
ステップ1:年1回の便潜血検査(一次検診)と、その「落とし穴」 健康診断や自治体の検診で行われる検便です。目に見えない微量の血液が便に混じっていないかを調べます。痛みを伴わず手軽にできる重要なスクリーニング検査ですが、専門医の立場からあえて厳しい事実をお伝えします。
便潜血検査における、病変ごとの発見率(感度)の目安は以下の通りです。
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進行大腸がん:約80〜90%
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早期大腸がん:約50%
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大腸ポリープ(前がん病変):約10〜30%程度
このデータが示す通り、すでに出血を伴うサイズになった「進行がん」であれば高い確率で見つけることができます。しかし、「早期がん」の約半分、そしてがんの芽である「ポリープ」に至っては約7〜9割が陰性となり、見逃されてしまうという決定的な弱点があります。ポリープや初期のがんは、便が擦れても出血しないことが大半だからです。
つまり、「便潜血検査が陰性=大腸の中は綺麗で安全」では決してありません。毎年欠かさず便潜血検査を受けて陰性だったにもかかわらず、ある日突然、進行した大腸がんが見つかるケースは、我々消化器内科医の日常診療において決して珍しくないのです。 便潜血検査はあくまで「手軽な入り口」に過ぎず、陰性であっても過信は禁物です。そして、もし1回でも「陽性」が出た場合は、「痔だろう」「たまたま擦れただけだろう」などと自己判断せず、速やかに次のステップへ進む絶対的な警告サインと捉えてください。
ステップ2:大腸内視鏡検査(大腸カメラ) 便潜血検査の「見逃し」という弱点を完全にカバーする究極の予防法が、大腸内視鏡検査です。カメラで腸内を直接観察するため、便潜血では見つけられないミリ単位の早期がんや、前がん病変であるポリープを確実に発見できます。そして、発見したポリープはその場で日帰り切除することが可能です。
米国で行われた歴史的な大規模研究(National Polyp Study)の長期追跡調査において、大腸カメラでポリープを切除することで、大腸がんの発生率を76~90%防ぎ、大腸がんによる死亡率を53%低下させることが証明されています。
特に以下に当てはまる方は、一度必ず大腸内視鏡検査を受けるべきです。
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40歳以上で、一度も大腸カメラを受けたことがない方
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便潜血検査で「陽性(要精密検査)」となった方(絶対に放置してはいけません)
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血縁者に大腸がんにかかった人がいる方
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便秘や下痢を繰り返す、便が細くなったなどの変化がある方
かつて「苦しい・痛い」と言われた大腸カメラも、現在は鎮静剤(静脈麻酔)を用いることで、眠ったり、うとうとしている間に苦痛なく終わるクリニックが増えています。陰性の結果に安住せず、直接腸内を確かめることこそが真の予防です。
まとめ
大腸がんで命を落とすことは、現代の医療において非常に悔やまれる事態です。「忙しいから」「検査が怖いから」と先延ばしにせず、まずは検診を受け、必要であれば必ず内視鏡検査を受診してください。早期発見、そして事前のポリープ切除こそが、あなた自身の命を守る確実な投資になります。
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